この胸が痛むのは
「侯爵やクラリス嬢がその様な方だとは……
 私は疑ってなど!」

「……アシュフォード殿下がその様に思われていても。
 王太子殿下より早く回収して破棄せよと命じられたから、殿下はその通りに動かれたのでしょうな」


命じられたら、何でもする男、と言われた気が
した。  
確かに帰宅した夫人に激怒されても素直に謝っていたら、その日の内にアローズへドレスは返品
されただろう。
そして再び店頭に飾られていれば、それを見た
誰かから直後に訂正の噂が流れていたかもしれ
ない。


今更だが、あの時は侯爵夫妻とアグネスに知られたくないと必死だった。 
ああしていたら、こうしていれば、俺はその繰り返しだ。


「私自身も子育てに成功しているとは言えません。
 何しろ、娘には信頼されていなかったと、思い知らされたばかりですから」


いつも、会えば自信たっぷりなスローン侯爵だった。
あの夜も、邸では放心した様に見えていたが、
ふたりを助け出すのを見守っていた森での態度は立派だった。
その彼は、クラリスがしようとしていた事を、俺から聞かされて。
今は父親としての自信を、失くしてしまったようで。
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