この胸が痛むのは

第63話 アシュフォードside

下城する侯爵を馬車まで見送る。
何を言えばいいのか、わからない俺に侯爵から話しかけられた。


「私の真意は別として。
 アグネスが殿下を求めるのであれば、邪魔は
致しません」

「……」

「もう二度と、子供から嘘を付かれたり……
 これ以上は勘弁して欲しいですから。
 息子や娘の心まで、親が思うようにするのは
無理ですね。
 思い知らされましたよ」

「……では、アグネスに」

「ご随意に。
 しかし、娘が貴方を拒否したなら。
 喜んで全力で、近付けないように致します。
 もう王命など聞く気はない」


バロウズは忠臣を失った……?
『お見送りありがとうございました』
そう言って、侯爵は扉を閉め、前を向き。
俺の方は見なかった。


そして、その日の内に侯爵家から書状が届いた。

『お探しのドレスは、こちらにはございません
でした。
たぶん、クラリスが持って逝ったのでしょう』と。


それと同封されていた、大臣職の暇願い。
2つを同時に届けさせる行為に、王家に対しての敬愛は少しも残っていないのを、思い知らされる。

それを受け取って、怒り、不敬だといきり立つかと思っていた王太子は。
静かに2通をびりびりと裂いた。

侯爵家に何かのお咎めを与えようとするなら、全身全霊で阻止しようと決めていたが、王太子は何もしなかった。

あのドレスは何処にも無い物。
そう決まったのだ。


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