この胸が痛むのは
これから物理的に離れてしまうが、気持ちは離れたくなくて。
今日、必ず聞いて貰おうと決めていた、その話をしたくて。


「今日は今まで言えなかったことを話して、もしも君が許してくれるなら、婚約を申し込みたかった」

婚約、と言う言葉にアグネスは、目を見開いた。
いつもは落ち着いた青い眼差しが、頼りなく左右に揺れ始めた。
そんなに驚くことかな、まだ12だからか。


側に居て守れないのなら、約束などしない方がいいか、と迷っていたけれど。
やはり、きちんと形にして、彼女を送り出したいと思った。
俺の話を聞いて嫌われても、トルラキアへ旅立つ前に何度でも会いに来て話をしようと思って……


「お父上やプレストンからドレスの話は聞いていない?
 あれは俺の、俺の馬鹿な俺のせいで、君のお母上とクラリスが亡くなってしまったのは、俺の……」


俺のせいだと続けようとしたら、アグネスが苦しそうに胸を押さえた。
顔色が白くなり、小刻みに震える。
呼吸が乱れて、浅い息を何度も短い間隔で繰り返して。

何かの発作か?
倒れそうな彼女を抱き締めて、名前を呼び背中を擦る。
ハッハッと、短い呼吸を繰り返し、吸い続けるばかり。
耳元で落ち着いて呼吸をするように伝えるが、聞こえているのだろうか。 

アグネスを抱擁したのは何度も無いので、自信は無いが。
以前より痩せた気がする。
本人は食べていると言うが、ちゃんとした量を食べていないんじゃないか。
睡眠の方も充分じゃないから疲れが貯まっているんじゃ……


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