この胸が痛むのは
「吸うよりも吐いて、ゆっくり息を吐いて……」

俺の護衛も、彼女の侍女も、人払いをさせていたので、自分で何とかしようと。
家族を失った心労から倒れそうになったアグネスが健気で、俺が何とかしないと、と愛しくて。
ただただ大切で愛おしくて。



君がここを離れたいと言うなら、反対などしない。
それで健康を取り戻してくれるなら。
おばあ様が側に付いてくださるなら安心だ。
あの国にはアンナリーエ嬢も居る。
君が笑顔を取り戻せるなら……

確か祖母も、1年に1回はこっちに戻らねばならないのじゃなかったか。
アグネス自身も留学旅券なら、2年に1度は更新しなくてはならないよな。
俺がリヨンから戻ってきたら、直ぐにトルラキアに会いに行けばいい。
そんな事を考えたら、彼女が彼の国へ行くのは良い事ばかりな気もしていた……この時は。


 ◇◇◇


リヨンに赴いて、それなりにバロウズの表外交は成功したと思えるようになったのは、王太子の見立てた通り、3年後だった。

レイとカランは俺と帰国するが、ライアンはこちらに移住を許された。
シモーヌ公女にトラップを仕掛けたはずが、本気の恋に発展して、結婚することになった。
これからは外交官がリヨン王宮の表を、ライアンが裏を知らせてくれる。
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