この胸が痛むのは
「トルラキアでは、15で社交界デビュー致します。
 去年の私のデビュタントにネネがパートナーを勤めてくれまして。
 お返しに来年のネネのパートナーは、バロウズへ赴き私が勤めようかと」


去年まだ14で、デビューもしていないアグネスをパートナーに?
これもまた、ストロノーヴァ公爵の鶴の一声か。


オルツォ侯爵令息の隣に座るアグネスは何も言わずに伏し目がちにしている。
俺の隣ではなく、彼の……
それが君の答えなのか、望みなのか?

彼の事など、デビュタントのパートナーになった事など、手紙で知らせはなかった。
そんな話があれば、無理にでも休みをもぎ取り、会いに来た。


『あらあら』と、俺の隣で前伯爵夫人がおっとりと口を挟む。


「オルツォ様は本日はどうして、こちらへ?」

「バロウズからアシュフォード王弟殿下がいらっしゃると、ネネから聞きまして。
 殿下におかれましては、彼女のデビュタントの事を気にかけていただいていると聞きました。
 私からもご挨拶と、ネネの用意はこちらでさせていただく旨をお伝えしようかと思いました」

「……」


ネネ、ネネと何度も繰り返して、しれっと言うその顔は憎たらしい程に整っている。
この容姿で、ストロノーヴァの後ろ楯を持つコイツなら、国内貴族のご令嬢からのお誘いも多いだろうに。

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