この胸が痛むのは
「アシュフォード殿下、今日はこれで失礼致します。
 また、機会がございましたら……
 ベアトリス夫人、またお邪魔致します」

俺には2度と会いたくないのをあからさまに見せて、オルツォ侯爵令息は立ち上がり、アグネスの祖母の名を呼び、手を取り、軽く口付けた。
俺はそんなことはしたことない。
気障な奴だな。

アグネスが見送りに立ったので、俺も同行する。
前伯爵夫人の手に口付けたのなら、アグネスにはどんな不埒な真似をするんだ。
16のガキ相手に余裕がなくて、我ながら情けないが、牽制はしておこう。


わざわざダウンヴィルの馬車に同乗してこちらに来たのだ。
後から遅れてきたオルツォの馬車が待っていた。


「じゃあ、ネネ。また明日ね」

アグネスを軽く抱擁して、頬を合わせる。
トルラキアの挨拶は気に食わないな。


「はい、またお時間が合えば、よろしくお願い致します」

普通にアグネスが返しているのが救いだ。
ふたりで並んで、馬車を見送る。

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