この胸が痛むのは
「……」

最近は思っている事が顔に出ないように、出来ていたはずなのに。
先生がニヤリと笑う。


「せめて国に居る時は見た目だけはちゃんとして、と母が言うもので。
 うるさく言われず気楽だったあの頃が懐かしいですよ」

この姿があれなんだな。
クラリスが一目惚れしたと言う、スッキリした髪型と素敵な瞳を出して、シュッとしている姿なんだ。
こうして見たら、どこかあの憎たらしいガキ、オルツォ・ノイエとも似ているな。


「当代公爵閣下と次代公爵閣下とはお会いしましたが、先生は王城にはお顔を出されていないのですね」

「社交は得意ではないですし、私の代はまだまだ先で。
 当代はお元気ですからね。
 今日はアグネス嬢はご一緒ではないのですね」

そう話しながらメイドが置いていったお茶のワゴンを引き寄せ、手ずからお茶を勧めてくれる。


「疲れた時は甘いものを」

先生はお茶にジャムを入れるのが、好みらしい。
意外と甘党だ。


「これは薔薇のジャムでして、母がぜひ殿下にご賞味いただきたいと申しておりました」

そう言われたら、甘いものは苦手だが断れない。


「薔薇と言えば、アグネス嬢の香りが変わりましたね」

「えっ……」

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