この胸が痛むのは
そうして冬が過ぎていき。
私は貴族学院のテストに合格して、無事に中等部入学が決まりました。
注文していた制服を身につけて祖母の前に立ちます。
合格して、無駄にならなかったのがとても嬉しかったのを覚えています。


「アグネスには、こちらの水が合うのかしら。
 背も延びて、頬もふっくらして、ますます可愛らしくなったわね」


生意気で大きな私を可愛いと言ってくださるのは親族と……殿下だけだった。
不意に殿下の事を思い出す事も多くて。
普段ずっと考えている訳ではないのに。
瞬間瞬間でかけてくださったお言葉を思い出したり、目の前にお姿が浮かぶのです。


この一面の雪景色を見たら貴方は、どう言うのだろう。
甘いものが苦手な貴方は、こんなに甘いケーキを食べたら吐き出すのかな。
この真新しい制服を着た私を、貴方は……


祖母の邸から見たリヨンの方角を兄に教えて貰っていました。
時々そちらを見て、リヨンの空を想いました。

私にとって殿下は。
会えば逃げ出したくなるのに、会えないと何度も想ってしまうひとでした。


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