この胸が痛むのは
『よく誤解されるんだけど、僕は吸血鬼や魔女の研究をしているんじゃないんだ。
 どうして、人々の間でそんな伝説や伝承が広まったのか、それによって人は何を求め、何を得られたのか、そんな人間の心の研究だよ。
 人の心の研究なんて終わりがないから、辞め時が見つからないんだ』

私にとって、教えを与えてくれたのはストロノーヴァ先生でした。
今の私を助けてくださるのは先生しか居ないのに。
同じ国にいらっしゃるのはわかっているのに。
もう話を聞いて貰えない、もう会えない先生。


年齢も様子も違うのに、目の前で同じ姿勢で読書をされている方に、何故かストロノーヴァ先生の面影が見えて。

つい、口に出してしまいました。


「ストロノーヴァ先生、お会いしたかった」

それが聞こえたのか、その方が本から顔を上げられて。
あぁ、やはり先生だ、と思いました。
この国に来て、初めて先生と同じ赤い瞳の方とお会いしたからです。

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