この胸が痛むのは
表面上はにこやかにしていても、心は塞いでしまい……
失礼な事ではありましたが、殿下に
『帰りたい』と、言ってしまっていました。
下城予定よりも早い時間だったので、殿下は少し驚いた様でした。


「お腹が痛かったり、もしかして目眩がするのかな?」


初めてお会いした日、この四阿で。
バージニア王女殿下のお茶会から早く帰りたくて、色々と口にしていた案をなぞらえて話されているのだ、とわかっていましたが……


「アシュ、何わけわからない事を言って……」

その事をご存じないマーシャル様が殿下に笑っても。
私は殿下のご冗談にも、微笑む事は出来ませんでした。


予定時間よりも早い下城となりましたので、帰りの馬車は殿下が手配してくださいました。


「母上と姉上の事は悪いようにはしないから。
 元気を出して」

勿体無くも、お見送りをしてくださった殿下が仰いました。
家族の事を考えて、気を塞いでいるのだと思われたようです。

違うのです、私はそんなにいい子ではないのです。
母を、姉を心配しているのではないのです。
私の心配は、殿下が姉を気にされているから。
こうして、私を気遣ってくださるのが、今日で終わりになるかもしれないから。
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