この胸が痛むのは
ここで断れば、もう多分この方は私には関わってこない。
そう思いました。
それは私の思うところだったのに。
何故か頷いてしまいました。

客席に向かって座って、両足を交互にぶらぶら揺らされている姿が幼い少年の様に見えました。
さっきまでの吸血鬼があまりに悲しい寂しい存在だったからでしょうか。
聞いて欲しい話があるのなら、少し聞いてもいいかなと思ってしまったのです。


「来年の4月に、俺のデビュタントがあって。
 そのパートナーになってくれないかな?
 トルラキアの女の子は誘いたくないんだ」

「……」

「高等部を出たら、俺はこの国を出ると決めた。
 しがらみは少ない方がいい。
 トルラキアではデビュタントのパートナーと婚約するのが一般的で、皆それを当然期待する。
 俺に全く、少しも、興味のない君ならそんな事にはならないだろ?」

「私はまだデビュタント前なので……無理です」

「ストロノーヴァのご当主なら何とでも出来る。
 会える様に段取りをするから、気に入られたら……」

「純血主義者の当代公爵閣下でしたよね?
 バロウズ人の私では、無理だと思います。
 気に入られる事はないでしょう。
 何かお考えがあるのですか?」


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