この胸が痛むのは
この場に関係のない夫人が同席していることを、先生はアグネスにどう説明するのだろう?
確か研究の協力と言って、それを俺が反対したらいいんだったな。
それまで余計な真似はしないように……

不意に先生が夫人に向かって尋ねた。


「あの例の、何だっけ、催眠術?
 あれまだ続けているの? 結婚したから引退した?」

「今でも頼まれたら、ご披露していますのよ」

「そう? 皆から頼まれて?
 あれは本当はどうなんだろうね?
 君はどう思う、アグネス嬢は催眠術って、信じてる?」

急に話題をふられたアグネスは慌てていた。
催眠術に否定的な感じの先生と、初対面の女性と。
だけど俺にはわかっている、彼女がどちらに付くか。
それは先生も夫人も同じ様にわかっている。


「まだ、催眠術を見たことがないので、どちらとも言えないのですが……
 ひとの、心の研究をなさっている先生のお言葉とは思えません」

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