この胸が痛むのは
「貴女のお名前を確認させてね?」

「アグネス……アグネス・スロー、ン……」

「そうね、貴女はアグネス・スローンね、ちゃんと答えてくれてありがとう。
 アグネスは現在、何をしているの?」

「……貴族学院の……中等部で」

「貴女は努力家なのね、留学生で、ご実家から
離れて……
 まだお若いのに、淋しくはない?」

「おばあ様と友達も居るので……
 淋しくはない……」

これは本当に催眠状態で、夫人の質問に答えて
いるのかな?
俺と離れているのを、淋しいと言ってくれたら
いいのに。

 
「トルラキアを気に入ってくれたのね、嬉しいわ。
 アグネスのお友達の名前を教えてくださる?」

「……リーエ、ナルストワ・アンナリーエ」

「……」


一瞬、夫人が言葉を失ったように感じた。
あり得ないが、平民のアンナリーエを知っているのか?


「……とてもいいお友達が居て良かったわ。
 卒業するまで貴女はバロウズに帰りたくない
のね?」

「……帰りたくない、帰れないの、今は」

「ご家族はバロウズなのに? 理由を教えて?」


帰れないの意味がわからず、俺も理由が知りたい。
ここまで、質問に淀み無く答えていたアグネスが口ごもった。


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