この胸が痛むのは
「大丈夫よ、大丈夫。
 貴女が何を言っても、誰も貴女を咎めない。
 貴女が何かを知っていて、それを言えなかったのも同じ様に責めないから」

アグネスの瞳は閉じられたまま。
答えたくないのか、答えたいのか、わからない。
抗うように首を振り始めたので、苦しんで居るのならもうこれ以上は無理をさせたくない。

そう思って俺達3人から離れた窓際のデスクからこちらを見ている先生の方を伺うが、黙ってこちらを見ているだけだ。
アグネスの沈黙を気にしないのか、夫人も焦ること無く黙っている。



「バロウズから逃げ出したの……怖くて、申し訳なくて。
 私がしたこと……誰にも知られたくなかった」

「そうなの? お話してくれたら、楽になれるわ。
 貴女ひとりが抱えなくてもいいの。
 私はずっと貴女の味方よ、話してくれたら、
力になれると思うの」


あくまでも優しい夫人の声に、目を瞑ったままのアグネスが涙を流した。
何をこんなに苦しんでいたのか、何も気付いていなかった自分に腹が立つ。

やはり、リヨンなんかに行くんじゃなかった。
家族を失って傷付いていた君の側にずっと居るべきだった……


「私が……私が殺したの。
 クラリスに消えてほしかった。
 ……憎くて、居なくなってと呪ったの」


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