この胸が痛むのは
俺の愚かさが遡って明るみになっていく。
アグネスの手を握る掌に汗をかき始めていた。


「ドレス、贈った、カード、カムフラージュ、
誤解…… 
 ふたりは話していて……」

アグネスがトルラキア語で単語を話し続けていく。
万が一、誰かに聞かれてもばれないからと、バロウズの言葉でなく外国語を使用した事実が。
こうして晒されると、それが如何に秘密めいて
淫靡な関係であると受け取られるか、突き付けられた様な気がした。


「それで殿下がクラリスにドレスとカードを贈ったのかもと思って……
 探しに行って見つけたの。
 綺麗な、すごく素敵なドレスと……」

「カードも見たのね?」

あれだけは、あれだけは君に見られたくない。
そう祈ったが、アグネスは微かに頷いた。


「ドレスはどうしたの?」

「お姉様のお部屋に……でも、消えてしまったの。
 王太子殿下に命じられて、皆で探したけれど……」


夫人の問いに、アグネスは苦しそうに眉をひそめた。
そして、俺の手から自分の手をそろそろと、引き抜こうとしていたので、慌ててその手を掴んだ。
今この手を離してしまったら、二度と掴まえられない、そう思って。

ドレスだけじゃなく、カードまで見られていた。
俺に手を握られたくないのはショックだが、無理もない。

< 461 / 722 >

この作品をシェア

pagetop