この胸が痛むのは
自分と姉の両方に愛を囁く最低な男、俺はそう思われている。
あの頃ふたりだけで話す事を徹底的に避けられていた。

邪魔をする様に入ってくる従兄。
逸らされる視線。
虚ろな笑顔。
噛み合わない会話。
未だに記憶の奥で燻っていたそれらの辻褄が合った。


「私は愛しているなんて、言われた事もない!
 愛を込めて……そんなカードを、いただいた事も!
 私が大人になるのを待つのに、疲れてしまわれたんだ、と」

「アグネス、落ち着いて?
 一度息を吐きましょうね、深く、そう……」

今までよりも大きな声を出したアグネスの呼吸が荒くなる。
当時を思い出したのか、また涙が流れ始めた。

何も考えていなかった自分が。
その時その場を凌ぐ事だけに腐心していた自分が、許せない。



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