この胸が痛むのは
「ご帰国される日を、早めに教えてくださいね?」

祖母と見送る際に、馬車に乗り込もうとした俺にアグネスがそう言って微笑んだ。


 ◇◇◇


「彼女はもう、私を見捨てたのかもしれませんね」

先程の応接間に再び通されて、お茶を用意した
メイドが下がった途端にそれを口にした俺に、
先生は無言だった。


「帰国の日を早く教えてと、言われました」

先生だけではなく、俺が戻ってくるのを待っていてくださっていたイェニィ伯爵夫人も何も言わないので、肯定されたようで辛い。


「アグネス嬢は吹っ切れたように見えましたか?
 殿下が彼女を楽にさせてあげたいと仰せになったから、催眠術をかけたのですが」

「……楽になったとは思います」

「では当初の目的は達成された、と言うことで
よろしいでしょうか?」

俺は頷くしかなかったが、先生が若干冷たい印象なのは、やはりさっきの……


「あの、さっきの、私が彼女の姉に対して言ったという」

「『私はあなただけを愛しています』ですか?」

「そうです!あれ、あの言葉なんですが、言ったのには理由がありまして」

「存じておりますわ」


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