この胸が痛むのは
俺に返事をしたのは、それまで黙っていたイェニィ伯爵夫人だった。
傍らの先生も頷いてくれていた。
ふたりに誤解されていなかったのが、素直に嬉しい。


「如何にも、教科書に載っている様なお決まりの台詞ですもの」

「……」

「アグネス様は3回繰り返した、と仰せになったでしょう?
 1回だけならまだしも、会話の中で真実の恋人に対して言うのなら、3回もあんな台詞は繰り返さないと思いますの。
 トルラキアにはもっと素敵な愛の言葉が多数
ありますのに。
 あの古くさい台詞を3回も繰り返されるのは、ご事情がお有りなのかと、トルラキア人なら思いますわ」

「そうなんです! 先生の代わりに言ってくれと、お願いされて!」

「私の代わりに、ですか?」

他人事の様に聞いていた先生に俺は吠えた。


「その言葉があれば、と言われたんです!」


先生自身には何の罪もないが、八つ当たりかも知れないが。
自分が悪いのはわかっていても、古くさいと笑われる様な愛の言葉を3回も言わされた俺は、先生を恨みがましい目で見てしまう。


「ストロノーヴァ様はご自分では、うまく誤魔化して逃げているおつもりなんですけれど、うちの主人も学生の頃はよく、そのとばっちりを受けたと聞いていますの」

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