この胸が痛むのは
とばっちり! イェニィ伯爵は学生の頃からの先生のご友人なのか。
先生が面白くなさそうな顔をして、少しだけ場が和んで、俺は失礼を承知で夫人に尋ねた。


「あの、夫人がされた催眠術の方法は初めて見ました。
 心の内をあれだけさらけ出せるとは、少し怖いほどでした」

すると、夫人は先生を一瞥し、それから厳かに
言った。


「あれは催眠術とは違います。
 私は出来ませんもの。
 単にお話を聞くぐらいしか」

「違う、って……」

「ストロノーヴァ様にお若い女性の本音を聞き
出したいとお願いされまして、催眠術を騙って、ふたりでそういう雰囲気を作ったのです」


俺は無言の先生の方を見た。
この御方は公爵よりも研究者よりもペテン師だ。


「私、そういう仕事をしているのです。
 王都学園で、悩んでる生徒の心のケアをする
相談役の様なお仕事を、させていただいていま
して。
 ストロノーヴァ様には、それをもっと怪しげにしてみましょう、と依頼されたのです」


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