この胸が痛むのは
あの雰囲気にのまれてアグネスは気持ちを吐き出せたのだろうか。
催眠術にかかった振りをして?


「催眠術であると、アグネス嬢は暗示にかけられたのです。
 最初は自分に意識がある事に驚いていたでしょうね。
 だが話が進む内、その境界が曖昧になってきた。
 これは催眠術だ、本当は話したくないのに、術にかけられたから私は話しているのだと、自分に暗示をかけている様に見えました」
 
「……」

「ですがそれこそ、本当はずっと殿下に話したかった、聞いて貰いたかった事なんです。
 3年も我慢していたとは、幼かった少女がすごい意思だと思いますね。
 ……もしかしたら、誰かには話しているかもしれません。
 お母上や姉上を知らない、名前が出ていたトルラキアの友人とか、ですね。
 こんな状況下でないと、絶対に身近な家族や 殿下の様な、あの事件に関わりのある人には話せなかったでしょう」

「……」

「話して楽になりたい気持ちと、話す事で嫌われてしまうかもしれない恐怖や葛藤で、殿下が改めて何かを話そうとすると聞きたくなくて拒否が
身体に作用して、過呼吸を起こしていたのだと
思いますね」

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