この胸が痛むのは
「リーエが教えたという……
『恋敵を排除する呪い』、あれは呪いの儀式ではないのです」


魔女による恋敵を排除する呪い。
12歳のアンナリーエが9歳のアグネスに教えた
呪い。
アグネスの口からさっき聞かされたばかりなのに、それが呪いではない?


「必ず満月の夜に行い、綺麗なグラスに水を満たして、月を映して、それを飲み干す、でしたね?」

先生がアグネスが語った呪いの儀式の手順を俺に確認する。
確認するまでもない簡単な方法だ。
人を呪うのに、こんなに簡単でいいのか、と思うくらいに簡単な……


「後、手鏡にその相手の顔が映れば、の条件が付きましたね」

そうだ、普通なら相手の顔など映らないのに、 アグネスはそこにクラリスとそっくりな自分の顔が見えて、グラスを落としたのだ。
それで儀式は途中で終わってしまった。


「私の知ってる範囲では、満月の夜に行う呪いの儀式等、トルラキアには存在しません」

「満月の夜には、ですか?」

「人知れず、呪いは行われるもの。
 誰かを呪ったりするのは、夜を煌々と照らす
満月の下ではない。
 月が見えない新月の夜、これから月が満ちて
いく始まりの闇夜に紛れて行うのです」

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