この胸が痛むのは
私がそう言うと、殿下は少しだけ寂しそうに微笑まれます。
それに気付かない振りをして。
嫌な物言いをする私でした。


あのまま……3年前のバロウズでの日々が続いていたのなら。
母が居て、姉が居る……あの日々が続いていたのなら。
今頃、私と殿下は婚約をしていた様な気が致します。

お誘いしてくださった通りに、リヨンのメゾンで一夜限りの為のドレスを贅沢に注文して、殿下のご友人方にご挨拶をして……
それとも例のマダムアローズでオーダーをしたかもしれません。

でもそれは既に失われてしまった未来でした。
どんなに望んでも、もう手に入らない未来。



それは不思議な感覚でした。
あの日、ストロノーヴァ公爵家に殿下と伺って。
話の流れで何故か、催眠術を受ける事になって。
初めて術をかけられたので、これが普通なのかわからないまま……

意識はあるのに、今まで話せなかった事、話したくなかった事。
この様な話はするべきではないと思いつつ。
第3者の前で明らかにしてやりたい。
そんな感情もあって。


自然に口にしていました。
手を握ってくださっている殿下が動揺されているのもわかっていましたし、術をかけたアーグネシュ様が優しいけれど私を観察している事も。
離れた場所から検証される為にその場全体を冷静に見ているストロノーヴァ先生のお姿も。

それらが全てが見えていた様な。
私が私を見ている感覚です。

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