この胸が痛むのは
片方だけの手袋、留め金を失くした姉の小さな
バッグ、ほつれたレース編みのショールは母が
愛用していたものでした。
祖母から渡されたと思われる歪んでしまった宝石箱の中には、うちの騎士隊が苦労して探してくれた指輪やネックレスが2、3入っていて。
多分他は何処かへ飛んでいってしまって、それ以上は見つけられなかったのでしょう。

その隣には、中身はなかったのですが、泥にまみれていたのか、それを払った跡が付いた潰れた箱が置いてあって。
私が大好きなチョコレート専門店の箱でした。
この店のチョコレートが好きだった私の為に、
お土産として帰りに寄ってくれたのでしょう。


『ローラ・グレイシーは待ち伏せていたのではなく、たまたま侯爵家の馬車を見かけて、後を付けた』

殿下からの説明では何処で見かけたのか、とは
聞かされなかったのですが、あのチョコレートを買いに寄ったから見つかってしまったのだと、
わかったのです。

何処にも寄らず、そのまま帰宅していたらあの
事故は起こらなかった、と思いました。


『アグネスのハンカチ』と
『アグネスの好きなチョコレート』
……本当に、私には何の責任もないの?

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