この胸が痛むのは
「何を考えているの、アグネス?」

このひととは、違うひとと。
初めて夜会に出て、初めて抱かれて踊ってしまった。
あれは大した事ではない。
何かしたわけでもない。
あれは決して浮気なんかではない。


ずっとこの日が来るのを夢見ていた。
早く貴方に相応しい大人になりたいと、それだけを願っていた。
だけど大人になった筈の私は、クラリスの様に
複雑なステップなんて踏めない。
……こんな私が貴方に相応しいの?


殿下と踊っているのに、色んな想いに押し潰されそうになっていました。


 ◇◇◇


人に酔ったようだと殿下に告げると、抱えるように外のテラスに連れていってくださいました。
護衛騎士様に何事か命じられて、自らから飲み物を取ってこようとされたので、ご遠慮したのですが。

『すぐに戻るから』と。
上着を脱いで私の肩に掛けて下さいました。

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