この胸が痛むのは
女性がこちらに来る様子に。
どなたなのか、思い出そうとしましたが……
私は今日、バロウズの社交界にデビューしたの
です。
知り合いでもないのに、こちらに来られるのは、おひとりで寂しいのかしらと、思ったのです。
初対面の御方とも、きちんと会話をしなくては
いけません。
ですから、私の背後に立っていた騎士様がその方を止めようとなさったのを、手を上げて制しました。


「こんばんは、スローン侯爵令嬢アグネス様。
 新年おめでとうございます。
 デビュタントも、おめでとうございます」

母と同じくらいの年齢の方だと目の前までいらっしゃったので、気付きました。
それで慌てて立ち上がり、目上の方へのカーテシーを致しました。
この方は私の家名と名前を知っている。
友達のお母様でしょうか。
見覚えはありませんでしたが、邸に遊びに行かせていただいて居たのかもしれません。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。 
 新年おめでとうございます。
 ご無沙汰致しております」

「あら、私達初対面ですのよ。
 とは言っても、私はアグネス様の事をよく存じ上げていますけれど。
 あぁ、やっとお目にかかることが出来ました。
 ジョゼフィン・バーモントと申しますの。
 家は辺境伯家と言った方が早いかしら?」
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