この胸が痛むのは
「無理矢理押し付けて、3年も無駄にさせて……あの3兄弟め!」

辺境伯夫人の口許は微笑んでいるようにも、歪んでいるようにも、見えて。
でも、その目は笑っていない。

私は怖くて、夫人の手を払うことも出来ませんでした。
すると、誰かが夫人の手首を掴んで、その手を私から離してくれたのです。
戻ってこられたアシュフォード殿下でした。


「いささか、酒量を過ごされたようですね
 別に部屋を用意させましょう」


それと同時に、あちらに佇んでおられた男性も、夫人の後ろに立っていて。
よく見ると、マーシャル様でした。


「失礼ですが、お身体に触れます」

そうお声をかけられて、夫人の肩を押さえる様に手を当てられました。

私は後ろから来られた殿下に気付いていませんでしたが、夫人からは見えていたのに。
どうして私に触れたのでしょう。


辺境伯夫人は機嫌良く、笑いながら。
殿下に向かってカーテシーをなさいました。
それまでゆらゆらと身体を揺らされておられたのに、この時は、お辞儀の角度、その伸ばした指先まで。
さすがの名家のご婦人の完璧なカーテシーでした。


「新年おめでとうございます、王弟殿下。
 私これからスローン侯爵令嬢に、我が領に遊びにいらっしゃいませんかと、お誘いするところでしたのよ」 

「……」

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