この胸が痛むのは
「王配殿下から信頼をかち取れと命じたが、母国に帰ったお前を呼び出すとはな……」

「悪い人ではなかったし、覚悟を持って婿入り
したと話していましたよ」

「平民の女と付き合っていた第4王子の、王族としての覚悟なんてどれ程のものか。
 リヨンでも、ラニャンでもない、お前に聞かせたい話か。
 ややこしい話になるかもな。
 返事は直ぐせずに、有耶無耶でやり過ごせ。
 もしもの時は、クラインは切り捨てる」


クライン殿下が学生の頃に特待生だった平民女性と、婿入りの直前まで愛し合っていた事は、国王陛下には伝えていなかったのに。
当然、調べていたか。


これからリヨン入りして。
用事を片付けて帰国するのは、年を跨いでしまうな。
ややこしい話は勘弁してほしい。
デビュタントには絶対に戻りたい。

リヨン王宮に知られずに訪問したいので、平民としてリヨンに入国する。
外務から6名分のそれ用の旅券を受け取る。
俺とレイと護衛4名分だ。

髪を黒く染めて、目が悪いという設定で薄い色の入った眼鏡をかけた俺の名前は、カイン。
カイン・ブライズ、バロウズの商会の3番目の息子。
ブライズ商会はリヨンのバロウズ大使館に出入りする実在の商会で、王家が裏で動く時に屋号を
使用する協力をさせていた。
レイは反対に金髪に染めた。
カインが遊ばない様に張り付いているお目付け役の設定だ。


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