この胸が痛むのは
「私も殿下と呼ばない方が、いいのですか?」

アグネスから問われて
『殿下と呼んでくれてもいいよ』と答えた。

君が好きな様に呼んでくれて構わない。
俺はそれにちゃんと返事をするから。
だけど、その言葉はまだ、付け加えられない。


 ◇◇◇


俺を謀ろうとした侯爵夫人には、心底呆れた。
それと同時に姉のクラリスの真意が掴めない。

俺に対しての意図はない気はするが。
もし、これで俺が自分を気に入ると思っての行動なら、悪手過ぎる。
そんな面倒くさい女が好きだ、という展開はロマンス小説の中だけだろう。
少なくとも俺は素直な女性がいい。 


食事会の段取りを狂わされて、顔も見たくない
クラリス・スローンを部屋から追い出す。
予定より早くアライアに来て貰う。
アライアの話術が頼りだ。
先日、俺の話を聞いた彼女は
『あら、まあま!』と、喜んだが。
アグネスの年齢を告げると、一瞬顔を曇らせた。
 

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