この胸が痛むのは
「私は直ぐにシュルトヘ戻りましたが、妹は旅券の申請もあって、クラリスの誕生日まで残って
いたんです」

「……」


一昨年の秋、トルラキアに留学中は毎年バロウズには帰国しないけれど、2年に一度旅券更新の為に帰国をしますと、俺もリヨンで手紙を受け取っていた。


「うちの家令が言うことには、あいつ、クラリスの誕生日にクラリスの部屋に長時間籠っていた、らしいんです」

「姉を偲んでだろう? 何がおかしい?」

アグネスはクラリスを慕っていた。
『謝りたいのに、もう会えない』と、去年の催眠術の時に泣いていた。

一昨年の秋ならアグネスの中で、その想いは吐き出される事なく、溜まっていた筈だ。
姉を偲んで部屋に入る事自体は、おかしな事じゃないだろう。


「2時間です、朝、昼、夜に2時間ずつ。
 合間には邸中うろうろしていた、そうです」

「え、2時間も? 時間を空けて合計6時間か?
 それは……お父上はなんと言っている?」

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