この胸が痛むのは
「お前が心配している、外国籍の学生が不動産の譲渡を受けた場合のトルラキアの法については、私と……
 もし、スムーズに行かない場合は力になると、ストロノーヴァ先生が仰ってくださったから、任せて欲しい」

普段は『俺』と言う兄が『私』と言って、とても頼もしく見えました。
また、先生のお力を借り、お世話になってしまう。
心強くも、申し訳なく思ってしまう私でした。


正直に言うと、この邸には愛着があって。
祖母が私に遺してくださったのは、とても嬉しいのです。
続けて父からも、お話が。


「9月に帰国して、旅券の更新はしなくてもよくなった」

「……どうしてですか?
 期限切れになってしまいます」

「お前もまだまだ落ち着けないだろうし、義母上も居られないのに、春まで残るつもりか?
 卒業したら直ぐ帰国となるのなら1ヶ月くらいなら特別に延長出来る様に、殿下にお願いした」

「……」

「本来なら、直ぐに連れ帰りたいところだったが……
 イェニィ伯爵ご夫妻のご厚意をありがたく受け取らせていただいたのだから、卒業までは余計な事は考えず、休まず学院に通いなさい」


確かに私は、9月に2週間休まないと帰国出来ないのですが……
卒業までの3ヶ月間、主のいなくなった祖母の邸で私をひとりで住まわせるわけにはいかないと、父達が話し合っていたところに、先生とアーグネシュ様からお話があって、私をイェニィ伯爵家で預かりますと、お申し出てくださったのです。

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