この胸が痛むのは
祖母の棺の横に設置された台上には、生前愛用
していた物を並べていて、皆様はそこに好物
だった果物や焼き菓子を持参して置いてくださいました。
その剥き出しの好意を、祖母は愛していました。
オルツォ様からの花籠もそちらに並べさせていただいたのです。


オルツォ様は去年、学院をご卒業されると
トルラキアを出て行かれました。
お別れは突然で、ご挨拶もいただけず、当然
今どちらに居られるのか、私にはわからない
のです。

祖母の死を、オルツォ様はどこで誰から知らされたのでしょうか。
オルツォ様の家出にストロノーヴァ公爵閣下は
大変お怒りになり、ご自分が生きて居られる限り帰国されても二度と受け入れぬと、仰せになったそうです。


実は、私のところにもエリザベート様がいらっしゃって、オルツォ様の行方を聞かれました。
お隣にはエリザベート様の旦那様で、黒い瞳をしたオルツォ様のお兄様が。
おふたりにご足労いただいても、本当にどちらに居られるのか知らなくて
『聞いていません、知りません』と、答えるしかありませんでした。


生前、姉から家出の事を話すつもりがなかったのは、先代から責められないようにしたくてと言われて、それさえも信じなかった私ですが。
愛していた身近な人に黙って家を出られると、
こんなにも人は捨てられた様な目をするのだと、知りました。

これを目の当たりにすれば、行方を知っていた
なら口止めされていても話してしまうと、
つくづく思いました。
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