この胸が痛むのは
「8月なのにトルラキアは、日が暮れると肌寒くなるな。
 少しこのままで」

「今、ストロノーヴァ先生とお話をしていました」

「……何か仰っていた?」

「お世話になりましたし、これからも今まで以上にお世話になるので、御礼を申し上げていました」

「……そうか」


この御方には見せられない、建前ばかりの私を。
まぶしい程に明るくて、お優しい貴方だけには。


「旅券の更新も、今回は帰国しなくてもいいと、父から聞きました。
 お手数をおかけして、申し訳ありません」

「それは気にしなくていいから……卒業まで、
ひとりでがんばれる?」


殿下の腕の中で、体の向きをかえて、殿下を見上げました。
貴方も私に罪悪感を覚えているの?
……私は身代わりでもいいの。
はっきりそう伝えたら、貴方の罪悪感も少しは減る?


「後3ヶ月です。
 アーグネシュ様も、リーエも居てくれますから」


殿下はいつも口付けの後は、黙ってぎゅっと抱き締めてくれます。
この時は、いつもより長く抱き締めていてくれた様に思えました。




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