この胸が痛むのは
自分ひとりでは何も出来ない。
周囲が私の為に動いてくれているのを、眺めて
いただけでした。

もう子供じゃないのだから。
周囲に甘えるのは、もうやめろ。

殿下との婚約は私が卒業するまで待ってほしいと、引き伸ばしていたくせに。
帰国してからもはっきりとせず。
そんな私を快く思わない方がいらしたのです。


アシュフォード殿下の外遊中に開かれた、シュルトザルツ帝国使節団を迎えての歓迎夜会会場で。
帝国第2皇女の、アンヌ・ゾフィ殿下でした。 


「アシュフォード殿下には、多数の縁組申し込みが来ていると聞いているわ。
 かく言う私もその内のひとりなの。
 あの御方がお断りする時に理由としてお使いになる『内々の婚約者』が、貴女なのね?」


容姿も声も、何一つ似てはいないのに。
思い出させる御方でした。
胸を張り背筋を伸ばし。
こちらの目を見て、はっきりとものを言う。
どこか姉のクラリスを彷彿させる御方でした。

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