この胸が痛むのは
先生の私室に入ると、既にお茶のワゴンが置いてあった。
最近は、家令やメイドの顔を見ること無く、この邸を辞する事も増えた。
程よい広さの先生の私室は心地いい。
トルラキアに来る度にこの邸に通うようになって、すっかり薔薇のジャムにも慣れた。
反対にそれを入れないと、何かを忘れた様な気にもなる。
この不思議な習癖というか、中毒性は、この国そのものの様な気がする。
アグネスの卒業式には予定が入っていて、出席出来ないので、しばらくはこの邸に伺う事もないし、先生にも会えなくなる。
「ノイエの事は御礼を申し上げたいと、思っていました。
改めて……ありがとうございました」
先生に頭を下げられるが、俺は大した事はしていない。
初対面では煽ってきたノイエも、公爵家の晩餐会で会った時に頭を下げられてからは、親しくなった。
それはお互い、アグネスには言わなかったが。
幾度も顔を合わせて会話を重ねる中で、学院を卒業したら国を出たいと聞いて、俺がした事はリヨンのライナスへ手紙を出しただけ。
彼の夢を実現するには俺の知る限り、自由と芸術を守るフォンティーヌ女王が治める国リヨンがいいと思ったからだ。
金銭的な援助はしていない。
ただ入国したら、先ずはライナスを訪ねる事、それから居場所を変える時には必ず連絡を入れる事を約束させただけだ。
最近は、家令やメイドの顔を見ること無く、この邸を辞する事も増えた。
程よい広さの先生の私室は心地いい。
トルラキアに来る度にこの邸に通うようになって、すっかり薔薇のジャムにも慣れた。
反対にそれを入れないと、何かを忘れた様な気にもなる。
この不思議な習癖というか、中毒性は、この国そのものの様な気がする。
アグネスの卒業式には予定が入っていて、出席出来ないので、しばらくはこの邸に伺う事もないし、先生にも会えなくなる。
「ノイエの事は御礼を申し上げたいと、思っていました。
改めて……ありがとうございました」
先生に頭を下げられるが、俺は大した事はしていない。
初対面では煽ってきたノイエも、公爵家の晩餐会で会った時に頭を下げられてからは、親しくなった。
それはお互い、アグネスには言わなかったが。
幾度も顔を合わせて会話を重ねる中で、学院を卒業したら国を出たいと聞いて、俺がした事はリヨンのライナスへ手紙を出しただけ。
彼の夢を実現するには俺の知る限り、自由と芸術を守るフォンティーヌ女王が治める国リヨンがいいと思ったからだ。
金銭的な援助はしていない。
ただ入国したら、先ずはライナスを訪ねる事、それから居場所を変える時には必ず連絡を入れる事を約束させただけだ。