この胸が痛むのは

第93話 アシュフォードside

俺の立場。
バロウズの王族、王弟。
結婚後は公爵。
それと、求婚者。
アグネスへの。


本当に止めたいのなら、物理的にアグネスの邪魔をすればいい。
クラリスの誕生日にどこかへ強引に連れ出す。
それこそ、事前に国外にでも連れ去って、その日に間に合うように帰国出来ないとでも言えばいい。

だが……
アグネスの中で、この日は心に期する日なのだと、思う。
この日に、最初で最後の死人還りを行う事で、
過去に踏ん切りがついて、前に進めるのなら。
俺は彼女の側にいて、見届けたい。


「今更、イェニィ伯爵夫人やアンナリーエ夫人が手伝うと申し出ても、信じないでしょうし……
 参った……何で、僕は彼女にああいう言い方をしたかなぁ」


不意に昔に帰った様な言葉使いを、先生がしたので。
もう俺の前では『僕』と、言わない先生が本気で困っているようで。

見た目は変わっても、ずっとこの人は先生のままだと思った。
この人は生徒の前でも、自分の間違いや迷いを認めるひとだった。


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