この胸が痛むのは
「すまん、また……母上がやらかした」

今年に入ってから、正式に俺の秘書官の肩書きを持つようになったレイが慌てて、執務室に入ってきた。


「今そこで、ルメインから聞いたんだが……」

ルメイン・コルト子爵令嬢は現在のレイの恋人だ。
王城でギルバートの女官として働いているから、今そこに居るわけはない。
ふたりで空き時間に、何処かで逢い引きでもしていたに違いない。

そこは敢えて聞かないが、母上と言うことは
アライアか。
レイに詫びられたから何となく想像がつくので、気分が沈む。

俺の側に居たカランの顔も途端に険しくなった。
何年も前から、カランは俺の前ではアライアへの反感を隠さない。
口にはしないが、名ばかりになった専用女官長を辞めさせたらいいのにと、思っている。
既に1人前の仕事をしている王弟に対して、
元乳母だからと言っても遠慮が無さ過ぎると、
憤っている。


「本日午前中にスローン侯爵令嬢が、忘れ物を
届けに侯爵の執務室を訪れた」

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