この胸が痛むのは
ギルバートの執務室は、ここから少し離れているが同じ廊下の先にある。
コルト女官が近付く前から、ふたりは会話を交わしていて、その結果アグネスは俺を訪ねる事なく下城したのだ。
アライアは一言どころじゃなく、結構責めたのだろう。


「『スローン侯爵令嬢なら結婚してもいい』と、殿下は仰せなのだから、引き延ばしたりせずに
早く受けるのが当然でしょうと、言っていたそうだ」


は? 『アグネスなら結婚してもいい』?

俺はそんな風に言っていない。
『アグネスとしか、結婚しない』と、言ったんだ。
それをアライアは同じ意味として、彼女に伝えたのか?

しかしそれじゃ、まるで……
まるで、俺が結婚したくない独身主義者で。
本当は誰とも結婚なんかしたくないのに、
仕方なく結婚しないといけないのなら、アグネスだったら良しとするかみたいな、何を上から偉そうにみたいな。
自意識過剰なバカ男、そんな風に受け取られかねない。


俺はアライアに言った言葉を、レイとカランの前で聞かせた。
ふたりは神妙な表情だ。


「この2つは同じ意味か?
 はっきり言ってくれ、これはマーシャル夫人の受け取り方が正しいのか?」


ふたりは大きく頭を振った。
どちらがおかしいのか、審判は下った。
自分を抑えようと思っても、我慢出来ない事も
ある。
アライアには、俺が公爵となったら伝えようと
思っていたが、早めることにした。


「レイ、早急に伯爵になる準備をしておいてくれないか」

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