この胸が痛むのは
「……いいえ、私には何も」

「お前以外にアグネスが頼みにしている人間を
知っているか?」

「……申し訳ございません、そちらも私には」

メイドは小さいながらも、はっきりした声で返事をした。
仕方なく、下がるように命じる。
扉の前で控えていた家令がメイドを連れて下がりそれを見送る侯爵が申し訳なさそうに、俺に言った。


「アグネスなら外部でなく、邸の人間に協力を
求めそうだと思ったのですが」

アグネスが帰国して10カ月くらいか。
泊まりの誘いには応えても、そこまで話せる友人はまだ出来ていないのか。


3人とも他の協力者候補が思い付かず、黙っていると。
扉をノックする者が居た。


「ゲイルで、ございます」




アグネスに術をかけ、術を解く。
彼女から協力を求められたのは、家令のゲイルだった。


それは意外な様で正しい選択だ。
代々、スローン侯爵家に仕える彼は、何事であろうと、邸内で起こった事を外部には漏らさない。
当主の侯爵から尋ねられない限り、何人にも。

ゲイルは打ち明けた。
去年、留学から戻られたアグネスお嬢様に協力を申し付けられた。
過去2回のアグネスの行いを見てきたゲイルに
とって、それはあまりにも切実な願いに思えた。

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