この胸が痛むのは
「あの王女を牽制するんですよ?
 私の望むモノを戴けるのなら、喜んで協力を
させていただきますわ」

何か、本当にこの女……見た目がアグネスに似ているのが却って腹立たしい。
何も礼をしないわけではなかったが、どこかで
あの出来事を不問にしてやったのだから、と考えていた。


確かに隣国の王女は有名で。
俺のパートナーは何かされるかも知れない恐れ
はある。
見た目も態度もでかい王女は、海に住む巨大な
海獣になぞらえられて、クジラと呼ばれている。
気を付けないと、全てを飲み込むクジラ王女と
して、我が国でも有名なのだ。


「私に支払い可能である報酬なら」

アグネスをあのクジラから護れるなら。


クラリス・スローンが小首をかしげる。 
その仕草は何だ? 
こちらが聞きたくない事を言い出す前に、可愛さを演じるのは、バージニアと共通しているな。


「多分、可能です。
 お金ではありません」

「はっきり言ってくれ。
 そのまま、俺との婚約などは無理だから……」

先にそこだけは明確に言っておこうとした俺を、残念なものを見るような目で見たクラリスが声に出さず、口を動かした。
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