この胸が痛むのは
「仰せの通り、午前中は何事もなくお過ごしに
なられていました」

アグネスの午前中の様子を、アーサーが俺に報告をした。


「散歩はしたのか?」

「散歩はなさっておられませんでした。
 ピアノ室に入り、クラリスお嬢様を偲びたい
からと、何曲かピアノを弾いておられました」

そうか、朝はピアノを弾いていたか。
俺は何の曲か知らないが、多分クラリスが好き
だったか、得意だったかの曲を弾いて、彼女の
霊を招こうとしていたか?


応接室でアーサーと話していたが、2階から降りてきたアグネスに見つかるより、そろそろこちらから彼女に会いに行こうか。

俺としては、このまま諦めてくれてもいいし、
決行してくれてもいい。
だが、そうなれば協力者は俺だ、アーサーや
レニーではない。


立ち上がろうとすると、応接室の扉が控えめに ノックされた。
アーサーが誰何すると『レニーです』と、答えがあった。

彼女には詳しい話をしていないが、アグネスの
部屋にアーサーは入れないし、気軽に話も出来ない。
それで、今日一日のアグネスの言動に何か変わったことがあれば、アーサーまで直ぐに報せる様に侯爵はレニーに命じていた。


アグネスに動きがあったか?
アーサーがレニーから話を聞いていたので、俺は座り直した。
レニーが退いて、アーサーがこちらにやってきた。


「お嬢様が温室に行かれたそうです」

「……わかった、私が行こう」

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