この胸が痛むのは
あの時も彼女はこのテンションで、俺を温室に
引っ張ってきたのだ。


「どうして久し振りなんて、嘘をつくの?
 何度もふたりでここに来たじゃない?」

「……ご、ごめん、忘れていただけなんだ……」

「いいわよ、許してあげる」

あの日、大人ぶっていた12の彼女の口調は。
今の19のアグネスには幼く感じた。
背中に冷や汗が流れた。 

何度もふたりでここに来た?
それは誰の記憶だ?
クラリスじゃないのは確か。
アグネスが何の暗示にかかっているのか、わからなくなった。
もしかして、あの時の彼女も今の人格が動かしていたのか?
目の前の君は誰だ?


「ねぇ、フォード様、また悪魔払いしましょうか?」


フォードと呼び掛けられたのは、何年振りか。
からかうような口調。
忙しなく動く青い瞳。
差し出された手を握る。
ご機嫌なのはいいが、早く温室から連れ出した方がいい気がする。
クラリスじゃない擬態を見せられるのは想定外だった。


そうしようとしたのに、反対に引っ張られた。
どんどん進んで、あのガーデンチェアに座らされた。
ここで、また『悪魔払い』をしようと言うのか?
だが、あの日のように俺の前に立つのではなく、俺の隣にアグネスは腰かけた。
まさか……


「久し振りに、愛していると、仰って?」

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