この胸が痛むのは
まさか……でも。微かな希望を含ませて俺は言った。
バロウズ語の『愛してる』を。
しかし、アグネスは顔を曇らせた。
やはり。


「どうして? あの日みたいにトルラキアの言葉で言ってくださいませ」

あの忌々しい古くさいと、嗤われたあの言葉を。
あれを君は俺に言えと言うのか。


『……私はあなただけを愛しています』

「もう一度、言ってください」


これは、あの日のクラリスとの会話を繰り返せと、言っているのか。
……我慢しろ、君は今、本当の君じゃない。


『……私はあなただけを愛しています』

「もっと、ちゃんと言って?」

「もう……言いたくない」

「もう一回だけ。フォード様が話すトルラキアの言葉って素敵だもの」

あくまでも、3回言わせる気か。
……わかっているのに、頭が沸騰しそうになる。
違う、これはアグネスが言ってるんじゃない。
違う人格が彼女に言わせている。

『出来るだけ、合わせてください』と、注意された先生の言葉を噛み締める。


「これで最後にしてくれないか。
『私はあなただけを愛しています』」

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