この胸が痛むのは
さっきまで、フォードと呼んでいたのに、今度は殿下か。
忘れるのは俺じゃない、君だ。
君にクラリスを忘れてほしいんだ。
「姉を偲ぶ、と言うけれど。
俺は君の母上と姉上に毎年花を送っているだけだよ?
それを君は何か誤解しているのかな。
……では、今年で最後にすると約束しよう」
「いいえ、来年も、再来年も。
殿下のお心が求めるままに」
変格意識下では間違った記憶に囚われると、聞いていたが。
アグネスのなかでは俺は毎年、クラリスを偲んでいる事になっているのか?
否定しても、説明しても、話が全く通じていない。
俺の心が求めるもの?
アグネスにはわかって貰っていると、思っていた。
どう返事を返せばいいのかわからなくて、曖昧に微笑んだ。
やはり、温室から出なくてはいけないと思った。
アグネスに戻っているのなら、この間に連れ出そう。
「喉が乾いたんだ、お茶を貰えるかな」
「気が利かなくて失礼致しました。
直ぐにご用意致します」
彼女は俺より先に立ち上がったが、もう俺の手を取り、引っ張ったりしない。
それで俺は彼女をエスコートして邸内に戻った。
温室の中の薔薇の香りと、外で降り続く雨の匂い。
何が現実で、何が怪しなのか、境界線がわからなくなってきた。
自分が楽天的過ぎた事に、俺はやっと気付いた。
忘れるのは俺じゃない、君だ。
君にクラリスを忘れてほしいんだ。
「姉を偲ぶ、と言うけれど。
俺は君の母上と姉上に毎年花を送っているだけだよ?
それを君は何か誤解しているのかな。
……では、今年で最後にすると約束しよう」
「いいえ、来年も、再来年も。
殿下のお心が求めるままに」
変格意識下では間違った記憶に囚われると、聞いていたが。
アグネスのなかでは俺は毎年、クラリスを偲んでいる事になっているのか?
否定しても、説明しても、話が全く通じていない。
俺の心が求めるもの?
アグネスにはわかって貰っていると、思っていた。
どう返事を返せばいいのかわからなくて、曖昧に微笑んだ。
やはり、温室から出なくてはいけないと思った。
アグネスに戻っているのなら、この間に連れ出そう。
「喉が乾いたんだ、お茶を貰えるかな」
「気が利かなくて失礼致しました。
直ぐにご用意致します」
彼女は俺より先に立ち上がったが、もう俺の手を取り、引っ張ったりしない。
それで俺は彼女をエスコートして邸内に戻った。
温室の中の薔薇の香りと、外で降り続く雨の匂い。
何が現実で、何が怪しなのか、境界線がわからなくなってきた。
自分が楽天的過ぎた事に、俺はやっと気付いた。