この胸が痛むのは
だが……さっきの温室の彼女を見ていて、俺は。
本当に情けないけれど、死人還りでクラリスに
なりきったアグネスをちゃんと受け止められる
のか、不安になってしまった。


温室でのアグネスは彼女自身だった。
彼女は……あの日の俺の言動を上書きさせた。

決して許されると思っていなかったし、許して
欲しいと望んでもいけないと覚悟していたが、
あれには心を抉られた。
アグネスを酷いと思ったからじゃない。 
自分の狡さを目の前に突き付けられたからだ。 
自分が被害者だと、ずっと思い続けていた、その狡さを。


クラリスさえ、あんな事を言い出さなければ。
カードを人質に取られていなければ。
イライザが勝手に送ったりしなければ。

俺が考えなしで、俺が原因で、なんて如何にも
自分に非があるように語っていたけれど、本当は違う。 
こんな理由があったからと言い訳したくて、それを周囲に触れ回っていただけだ。

イェニィ夫人には冷たい目をして見られたが、
男は皆、同情する様に頷いてくれた。
だから、反省の言葉を免罪符の様に。
薄っぺらな謝罪を振りかざしていたんだ。
それをアグネスは見通していた。


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