この胸が痛むのは
「彼女、諦めるでしょうか?」

「……そうしてくれたら助かる」

「また、綺麗になってました。
 雰囲気は変わったけれど」

「……」

「……その、殺すぞの、目、やめてください」

俺はそんな目をしてるのか、自分では覚えがなかった。
アグネスは君に気付いていなかった、くらいの
嫌味を言おうと思ったのを止める。
八つ当たりだ、情けない俺の、最低な俺の。


馬車のなかを沈黙が支配した。
ノイエが口で言う程、俺を恐れていないのも
知っている。
だからこそ、気楽に付き合える。
彼は今、イシュトヴァーンの名前を捨てて
ノイエ・オルティエと名乗り、リヨンで新進の
舞台俳優として活躍の場を広げつつあった。


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