この胸が痛むのは
「温室で何かありましたか?」

「アグネスに……自分の狡さを思い知らされたよ」

ノイエはアグネスから、俺とクラリスの一連の話を聞いているので、隠さずに話した。
聞き終えたノイエの赤い瞳には、俺に対する軽蔑も同情も浮かんでいなかった。


「アグネスが別人格を持つようになったのは俺のせいだ。
 そうしないと、本音を俺にぶつけられなかったからだ」

「……トルラキアの学院でそれ程交流はなかったんですが、割りと私には遠慮はなかったですね。
 最初の頃は話しかけても、お花を摘みに行くからって、ずっと逃げられていたんですよ。
 乙女の言い訳とは思えなくて、毎回笑えましたけど。
 でも、遠慮をしない、本音を言える、そんな
関係が最高だとも私は思っていないんです」

「……」

「好きな相手にはいいところを見せたいじゃないですか?
 私はそうなんです、好きなひとに絶対に本心は言わなかったし、気取っていました。
 アグネス嬢も、殿下も、お互いにいいところ
しか見せなくて少し無理をして、時々小出しに
本音を出したらいいと、言うのは無責任でしょうか。
 ……これは俺の人生持論なので聞き流してくれてもいいですが」

「人生持論……」

「ひとの個性が千差万別ある様に、恋愛だって それぞれの形があっていい、そう思っています。
 本当の気持ちはそうだったのか、傷つけてしまって申し訳ないと落ち込むよりは、そうなのか
悪かったと、口に出して謝って、うるさいと言われるくらい謝って。
 普段は格好つけてても、謝る時はプライドは捨てないと」
< 609 / 722 >

この作品をシェア

pagetop