この胸が痛むのは
「殿下……なの?
 いつもの温室での散歩を終えられて……
 帰られたのではないのですか?」

いつものと、また記憶と思い込みが混雑している。
『アグネス嬢の言うことに合わせてください』と、先生に言われていたのは、死人還りの儀式で彼女がトランス状態になっていたらの話だ。
これはクラリスではなく、アグネスとの会話なので合わせなくてもいいだろう。


「違うよ、アグネス。
 今年初めて、温室で君と散歩をしたんだ。
 君に愛している、って……さっき言ったんだ」

ノイエは近付かないように扉の前で立ったままだ。
俺はアグネスの前に跪いて彼女の手を取った。


「死人還りを試したの?
 姉上とは会えた?」  

「駄目……駄目なの、お姉様は来なかった」

ふるふると頭を振るアグネスの仕草は幼く見えた。
12の頃に戻っているのか?
そして、俺は気が付いた。
さっき着ていたデイドレスを着替えていた。

彼女は座り込んでいるし、何より暗くて、はっきりとは見えないが。
そうだ、メイドに着付けを命じたと、アーサーが言っていた。


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