この胸が痛むのは
夜会に着ていくようなドレス姿だ。
見覚えのあるデザイン。
まさかと、胸の鼓動が強くなる。
今はこの儀式の仕儀を気にするべきで、ドレスの確認など二の次なのに。
アグネスの着ているドレスが。
俺の思い浮かべたものだったとしたら?


死人還りは失敗した。
クラリスは還ってこなかった。
だったら。
俯くアグネスを抱き締めた。


「カーテンを開けてもいい?
 外はまだ降っているけれど、空気を入れ換え
よう」


換気と。
……ドレスの確認の為にバルコニーに続く掃き出し窓のカーテンを引き、雨が吹き込んでこない程度に開ける。
晴れてはいないが、それでも9月は昼が長くて。
晴れの日に比べたら暗いが、それでもまだ明るい外の陽を取り込むことが出来る。

雨の湿った匂いを含んだ新鮮な空気を吸い込んで、俺は振り返った。
そして確認した。


……どうして!
そのドレスを、今、着ているんだ?

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