この胸が痛むのは
あの日の、あのデビュタントの夜。
君の手を取り、何度も愛を囁いた。
婚約の話には頷いてはくれなかったけれど
『いつかは』と、応えてくれたじゃないか。
一瞬の、初めての口付けも受けてくれた。
そして身に付けていたドレスの胸元を撫でながら、君から言ってくれたのに。
『トルラキアでは、この夜のドレスを……』
「これは……一体どういうつもりだ?」
俺の声の震えは怒りからか、悲しみからか。
自分でも判断がつかない。
ただ、頭のなかを占めていくのは絶望。
ここまで君は、俺を憎んでいたのか。
いつ刺せば一番俺を傷付けられるのか、その
タイミングを俺の側で、ずっと窺っていたのか。
俺の言葉を聞いて、それまでぼんやりしていた アグネスの瞳が俺をしっかりと見た。
薄く嗤い、挑戦的な目で、俺を見ていた。
「アグネス! 何故嗤っている?
それは私を愚弄している、と受け取っていい
のだな?」
10年前の夏、トルラキアまでアグネスを追いかけた。
あの夏から俺はアグネスの前では『私』と言う
王子の仮面を脱いだ。
君の前では殿下ではなく、ひとりの男の
アシュフォードでいたかったから。
しかし今は、自覚なく『私』と言っていた。
君の狙いは正しかった。
この上なく正しいタイミングで、確実に君は俺の心臓を突き刺した。
『トルラキアでは、この夜のドレスをウェディングドレスに作り替える人が多いのです』
言い出したのは君の方だった。
『ウェディングドレスに?
……もしかして君も』
『いつか、いつかの日の為に、このドレスを作り替えてもいいですか?』
君の手を取り、何度も愛を囁いた。
婚約の話には頷いてはくれなかったけれど
『いつかは』と、応えてくれたじゃないか。
一瞬の、初めての口付けも受けてくれた。
そして身に付けていたドレスの胸元を撫でながら、君から言ってくれたのに。
『トルラキアでは、この夜のドレスを……』
「これは……一体どういうつもりだ?」
俺の声の震えは怒りからか、悲しみからか。
自分でも判断がつかない。
ただ、頭のなかを占めていくのは絶望。
ここまで君は、俺を憎んでいたのか。
いつ刺せば一番俺を傷付けられるのか、その
タイミングを俺の側で、ずっと窺っていたのか。
俺の言葉を聞いて、それまでぼんやりしていた アグネスの瞳が俺をしっかりと見た。
薄く嗤い、挑戦的な目で、俺を見ていた。
「アグネス! 何故嗤っている?
それは私を愚弄している、と受け取っていい
のだな?」
10年前の夏、トルラキアまでアグネスを追いかけた。
あの夏から俺はアグネスの前では『私』と言う
王子の仮面を脱いだ。
君の前では殿下ではなく、ひとりの男の
アシュフォードでいたかったから。
しかし今は、自覚なく『私』と言っていた。
君の狙いは正しかった。
この上なく正しいタイミングで、確実に君は俺の心臓を突き刺した。
『トルラキアでは、この夜のドレスをウェディングドレスに作り替える人が多いのです』
言い出したのは君の方だった。
『ウェディングドレスに?
……もしかして君も』
『いつか、いつかの日の為に、このドレスを作り替えてもいいですか?』