この胸が痛むのは
そうだ、ロレッタ!
彼女には以前にお世話になった。
お休みで実家に帰る際に、祖母の家までお使いに行ってくれた。
あれをメイド仲間にも内緒にしてくれた。

あの時は銀貨3枚、今回は金貨2枚にしてみようか。
彼女は誰にも言わない筈だ。
そう決めると頭痛も少し和らいだ気がしました。

『温室に行ってみない?』

誰かが頭のなかで私に囁いています。
もうこれが誰の声なのか、考えるのも疲れてしまって。
考えるのを放棄したら、この声の言う通りに動けば。
この頭痛も止まってくれる様な気がして。


「お嬢様、どうされたのですか?」

部屋を出ると、階段の手摺を磨いていたレニーがすかさず飛んで来ました。
午後に掃除をしているレニーを珍しく思いました。
掃除はいつも午前中に済ませていなかった?


「気分転換に散歩に……雨だから温室に行ってくるわ」

「わ、私がご一緒しても?」

「邸内なんだから、ひとりで大丈夫よ」

「畏まりました、行ってらっしゃいませ」


温室の中に入ると、白薔薇の香りが私を包みました。
他の色の薔薇に比べて白薔薇を育てるのに庭師は気を付けていました。
夏の陽射しで花びらが焼けてしまわないように。
特に雨が降り、すぐに止んで陽が照ると残っていた水滴の後が乾くと茶色の点になって、真っ白な花びらを染めるのです。
ですから姉の愛する白薔薇は温室で、手を掛けて育てられていました。


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